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南魚沼の木喰展

投稿日 2012年10月23日 火曜日

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カテゴリ中越地区の仏像, 木喰

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南魚沼市の池田記念美術館で開催中の木喰展に行ってきました。
個人蔵となっているものを始め、新潟県外にある南魚沼ゆかりの木喰仏も展示され、関係者曰く「二度とこのような木喰の展覧会はできない」といった内容の展覧会となっていました。興味のあるかたは是非会期中に足を運んでみることをおすすめします。

池田記念美術館はベースボール・マガジン社の創設者である池田恒雄氏の願いで建設された美術館です。始めて訪れたのですが、駐車場からのスロープには水が流れていて、裏手には庭園が広がっています。館内はコンクリート打ちっぱなしのモダンな建物でかなり近代的。近くには大きくて設備の整った公園やワイナリーなどもあり、非常に素敵な美術館でした。

私はパネルディスカッションの開催に合わせて伺いました。
パネリストは、進行の高橋氏を始め、池田氏、広井氏、鈴木氏と、木喰や民俗学研究の第一人者の皆様。本展示会の内容について興味深いお話をしてくださいました。会場は美術館のホール。観客は80人くらいでしょうか。立ち見もでて大盛況でした。
風の又三郎の像がかっこよすぎます。

本展示会の出展一覧は以下。まさに二度と開催できないような展示内容となっています。

出展一覧

      薬師如来(名木沢区)/仏像
      吉祥天女像(大崎院)/仏像
      大黒天(大崎院)/仏像
      大山不動明王(大崎院)/仏像
      大黒天(個人蔵)/仏像
      不動明王(個人蔵)/仏像
      カフキヤフ大師(満願寺)/仏像
      慈眼大師(満願寺)/仏像
      役行者(久川一利)/仏像
      (弘法)大師(田崎区)/仏像
      如意輪観音大士(上大月区)/仏像
      妙見尊(中島成夫)/仏像
      愛宕地蔵大菩薩(法人蔵)/仏像
      神変大菩薩(正光寺)/仏像
      薬師如来(吉里区)/仏像
      子安観世音大士(吉里区)/仏像
      聖観世音大士(小木六区)/仏像
      山ノ神尊(栃窪区)/仏像
      吉祥天女尊(栃窪区)/仏像
      愛染明王(田村家 湯沢町)/仏像
      如意輪観世音大士(片桐家 千葉県)/仏像
      大黒天(扇屋 豊島家 東京都)/仏像 *写真での展示
      龍水(井口久義)/書
      槌の歌(野沢家)/書
      六字名号(林明男)/書
      米寿八木の版木札(笛木正行)/書
      神号・三社託宣(個人蔵)/書
      年徳(林家 湯沢町)/書

展示会の見所

本展示会で注目すべき像は、カフヤノ大師。
この像はこれまで背面の書「カフヤノ」から「カフヤノ→高野の→高野の大師→高野山を開いた真言宗の祖『弘法大師』」とされてきました。しかし、真言宗の僧侶であるパネリストの鈴木氏は、一般的な弘法大師の像容とも異なるこの像が「カフヤノ大師」であることに長年疑問を持っていたそう。その疑問を解消すべく、本展示会に合わせて赤外線鑑定をおこなったそうです。
すると、フとヤの間には「キ」、ノの上部には横棒が一本読み取れ「フ」と書かれていることが判明し、「カフヤノ…→カフキヤフ→高野山を復興した真言宗中興の祖『興教大師』」であることが立証されたとのこと。

木喰の書は独特であり、これまでも間違って解読されたことが多くあったよう。この新事実が発見されるまでの裏話などで、パネルディスカッションは大変盛り上がりました。

本展示では仏像だけでなく、木喰の書も展示されています。書家としても活動され、本展示での題字を書かれた鈴木氏によると、「龍水」のダイナミックな書からは卓越した木喰のデザインセンスを垣間見ることができるとのこと。
木喰は造仏の際、誰にもその姿をみられないようにして作業をおこなったと伝わっていますが、鈴木氏は「書を書いたときはみんなの前で書いたのでは」と推理されていました。人前で書くと気分が高揚し、書に一層躍動感が出るそう。話を伺ったあとに木喰の書を見るとその光景が頭に浮かぶようでした。

役行者像も展示されています。木喰作の役行者像は、南魚沼での3体と新潟に近い長野での1体しか作例がないようです。役行者は水の神様とされるところもあり、このようなところから信濃川や八海山の山岳信仰の影響を感じることができますね。

木喰にみる自己プロデュース

木喰は仏像を彫っている姿を誰にもみせなかったといいます。人々が寝静まった深夜に、線香やろうそくの灯りで彫っていたのだという。
しかし、彫刻家を含む彫刻の研究家の解釈では、線香やろうそくの明かりではあのような仏像は彫れないのだそうです。

いくら立派なお坊さんでも、遊行僧という立場で身なりはそうとう貧しく見えたのではないか。そのままでは相手にされないこともあったのであろう。そういったことから、自分を神秘化するために造仏する姿を見せないという噂を流したのではないかということです。実際のところ、あれだけの群像や大きな仏像を彫るには下彫りなどをする手伝いが必要だったはずで、一人でひっそりと造仏したとは考えられないそうです。
木喰の自己プロデュースなんですね。

展示されている木喰仏の中でも、愛染さんがとても気に入りました。上半身や腕がぷよぷよした、赤ちゃんのような可愛らしい愛染さんがツボの上に座っています。
愛染明王は”愛染”を”藍染”と解釈し、染物・織物職人の守護神としても信仰されています。この木喰の愛染さんも、染物屋さんに代々伝わったものだそう。壺には染料が入っていたんでしょうかね。

また、千葉の片桐家に伝わる木喰さんも見事でした。片桐家では、毎日子供が木喰仏を磨くように言いつけられていたらしい。そのため、木肌はおびんづるさんや撫で薬師のようにツルツルピカピカで、日本で一番綺麗な木喰仏だというふうに解説されていました。

文化財保護について考える

今回の展示会に合わせ「まだ一般に知られていない木喰仏があるのではないか?」と募集をしたところ、何点かの贋作が持ち込まれたそうです。薬師如来にも関わらず背面の書を見ると、別の如意輪観音の背面に書かれた銘文がそのまま写されていたらしい。

オークションなどでも注意してほしいとお話がありました。木喰として広く認知されている「木喰五行」ではない木喰のものが、高価な値段でオークションに出るかもしれないとのことです

また、今年も新潟の木喰仏が1体県外に売られていってしまったそうです。かなり高額だったとのこと。別のところではおばあさんが骨董屋に「きちんと鑑定してあげる」と持ちだされ、そのまま騙し取られたということもあったそうです。今ではどこにあるかもわからなくなってしまったとか。

木喰仏に限らず、その土地土地に伝わってきた文化財というものは、一度失ってしまうとなかなか元通りの状態に取り戻すことはむずかしくなってしまいます。時代を繋ぐリレーのバトンを次の世代にきちんと渡していけるようにしたいですね。

2012.10.7

南魚沼市の木喰展

開催日時 2012年10月5日(金)から11月5日(月)まで
午前9時~午後5時(入館は午後4時30分まで)※最終日は午後3時終了
休館日 毎週水曜日
観覧料 一般500円(高校生以下無料)
開催場所 池田記念美術館
住所 〒949-7302 新潟県南魚沼市浦佐5493-3
TEL / FAX TEL.025-780-4080 / FAX.025-777-3815

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