GATABUTSU

人形浄瑠璃で阿弥陀の胸から血が流れた

投稿日 2013年3月17日 日曜日

コメント コメント(0)

カテゴリイベント情報など, 佐渡の仏像

タグ | | |

数年前、それはもういろんな意味でハマリにハマった「パチンコ 必殺仕事人」

ハマったがために、それまで一度も観たことのなかったテレビ放送の仕事人まで見るようになったのだが、私の時代劇は「江戸を斬る」あたりで終わっているのである。興味は時代劇そのものよりもむしろOPで流れる人形劇に移っていった。

どうやらそれは徳島の阿波人形浄瑠璃というものらしい。綺麗な娘さんの口が突然裂け、金歯金目で二本角を出した恐ろしい顔になる「山姥(やまんば)」という人形だった。
「あれをどこかで観たい!」
そう思ってフラフラしていたところ、近所の県立歴史博物館で佐渡ののろま人形を見つけた。奇祭つぶろさしよろしく巨根を振り乱した素敵な人形が、滑稽卑俗な話で私を笑わせてくれるらしい。

笑わされたい。すっかり気分はちょんぼ人形である。

ところがそいつは佐渡でしか見ることができないようで、気分はすっかりちょんぼりだ。そんな時、説経浄瑠璃「弘知法印御伝記」の復活上演をやった、越後猿八座の存在を友達から教えてもらったのである。
弘智法印といえば、新潟県寺泊の西生寺に現存する日本最古の即身仏。これはぽい。見事に私っぽい。そう思いながら手ぐすねを引いていたところ、2013年冬、猿八座の公演がおこなわれることを知ったのだ。

演目は「阿弥陀胸割(あみだのむねわり)」。阿弥陀と聞いて黙っているわけにはいくまい。場所は新潟県民会館小ホールで、入場料はなんと無料。

越後猿八座 阿弥陀胸割

越後猿八座は2008年に結成された佐渡の伝統人形芝居・文弥人形を操る劇団で、2009年に「弘知法印御伝記」で旗揚げ公演をおこなっています。これは寺泊の西生寺に現存する日本最古の即身仏、弘智上人を主人公に17世紀に書かれた説経浄瑠璃。1962年に大英博物館で発見された説経浄瑠璃の復活上演ということで、新潟のみならず東京でも公演が行われ、大変話題となりました。この「越後國 柏崎 弘知法印御伝記」の台本は1685年の発表から数年の後、ドイツ人医師により長崎・出島から海外に持ち運ばれ、それがイギリスの大英博物館で保管されていたのだといいます。

さて、今回は即身仏ではなく阿弥陀。「阿弥陀胸割」です。そのあらすじは次のとおり。

舞台はインドの毘舎離国(ビシャリー国)。
大変な長者がいて、黄金の湧く山や人を若返らせる音羽の松など、七つの宝を持っていた。音羽の松風に当たれば若返って死ぬことがないと、長者は思い切って悪行を働き楽しむのだが、釈尊の知るところとなり長者夫婦は殺されてしまう。しかし、主人公となる七歳の天寿姫と、五歳のていれい二人の子供は助けられる。
親と富を失った姉弟は乞食として流浪の身となるが、親の七回忌を迎えるという年、自分たちの体を売って長者を供養しようとする。しかし買い手がなく途方に暮れていると、阿弥陀仏に大まん長者の処に行けとのお告げを受けるのだった。
そこには奇病持ちの松若という子がおり、壬辰(みずのえたつ)の年、辰の月辰の日生まれの女を探していた。その女の生肝を飲ませると奇病が治るのだという。天寿姫はまさしくその運命の人で、松若の病は回復する。
野原で生肝を取った天寿の死骸が消えているので、大まん長者の使いの者が血の跡をたどると、命を売り渡す条件として建立してもらった三間四方の光堂に着く。そこには姉弟が生肝を取る前の安らかな姿で居た。三尺五寸の黄金の阿弥陀の胸の間がくわっと切れ、未だ生血が流れている。孝行な子ゆえ阿弥陀様が身代わりになられたという話なのである。

もうちょっと閉じた空間で

芝居は20分の休憩を挟んで前後半それぞれ1時間ほどの長丁場。
現代人には思ってた以上に難易度が高く前半は眠気との戦いでしたが、休憩時間にリアルゴールドを注入し、内容を味わいながら後半を楽しみました。

開演前にパンフを読み込んで、あらすじをある程度把握していたのでなんとかついていけましたが、大夫さん(語り手)の語りは平易な言葉を使っているにしてもやはり現代人には聞き取りづらい言葉が多く、呪文を唱えられているようです。また、出掛けにモタモタしてしまったがために、私が座った席はホール最後方。そこから見る人形の動きは、広い視界の中でチマチマと動いているという印象を拭いきれず、世界にののめり込むという感覚は味わえませんでした。

小ホールでも広過ぎたんでしょうね。ホールの収容人数は250人。その大きさのホールで遠目に動く人形達を見ると、ダイナミックな動きでも単調に思えてしまいました。50人ほどでいっぱいになる部屋でやれば、三味線も語りももっと迫力がでるのではないかと思うのです。
いやしかし、それは贅沢な話なんですよね。こんなに手間暇かかる芝居を無料で見せてもらっている立場なのですから。

キリストを暗示する阿弥陀

この芝居の中で、そのタイトルどおり阿弥陀さんの胸が割かれ、真っ赤な血が流れるというシーンがあります。血と仏像などというと、首から血が流れたという京都 戒光寺の釈迦如来などが思い浮かびますが、仏教的エピソードとしては珍しいのではないでしょうか。

パンフレットの解説によると、その昔、学会でもこの作品が話題になったといいます。

この「阿弥陀胸割」が浄瑠璃で演ぜられていた頃から60年ほど前。ザビエルがキリスト教をもたらし、それ以来十字架上の血みどろの救世主の姿は、日本人の目にも親しいものとなっていた。その結果として「阿弥陀胸割」のような作品が現れたのではないかという話です。

また、この作品で登場する阿弥陀は一光三尊の善光寺式阿弥陀如来。これについては、パンフレット上にこうあります。

さらに興味深いことに、善光寺本尊が「阿弥陀胸割」と同様に印度・毘舎離国の由来を持つことである。『善光寺縁起』によれば、釈迦が毘舎離国の大林精舎におられる頃、この国の「月蓋長者」の娘「如是姫」が十三歳で重病にかかり、父の長者は釈迦に祈願して「一尺五寸」の阿弥陀如来を得たところ、快癒(かいゆ)したという。この霊仏が百済に渡り、さらに仏教伝来で難波津に来臨(らいりん)、蘇我稲目が入手して祀っていたのを、物部尾輿が奪って難波津に捨て、本田善光が拾って、背負って信濃に持ち帰ったという。善光寺濫觴(らんしょう:ものごとのおこり・はじまり)を物語る著名な説話である。

「一光三尊」胸割阿弥陀の由来 川村知行 上越教育大学教授(仏教美術史)/公演パンフより抜粋

どうやら、この「胸割阿弥陀」のモデルは善光寺の阿弥陀三尊なのではないかという話なのです。

「阿弥陀胸割」の脚本として一般に出回っている本は慶安四年本(1651年)だといいますが、今回の上演はそれを遡ること3、40年前の脚本を使っているそう。慶長・元和(1610から20年あたり)ごろのもので、上演記録から見ると「阿弥陀胸割」初演のころの脚本ではないかとのこと。

絶対秘仏である善光寺の本尊が京都に迎えられた史実があるといいます。慶長二年(1597)で場所は東山七条の方広寺、豊臣秀吉発願の大仏殿。

「阿弥陀胸割」の阿弥陀は、天竺から唐の善導大師に渡ったことになっています。善導とは浄土宗祖師の第三祖で、本山は京都東山の知恩院。そして、法然上人四百年遠忌(えんき)は慶長十六年(1611)。この知恩院からほど近い蛸薬師通室町西入ルあたりには、「南蛮寺」という教会が伴天連追放まであったそうです。

三国伝来の阿弥陀如来と南蛮渡来のキリスト像が京都で繋がり、こんな話ができたのではないかとのこと。そんな時代背景を思い浮かべると楽しいではありませんか。

人形劇だ

三国伝来といえばそうだ、紳助・竜介のNHK三国志に違いない。思い出してみれば、私の人形劇の原点は「パチンコ 必殺仕事人」ではなく、紳々と竜々であり、張飛といえばせんだみつおだ。そういえば京都駅でせんだみつおを見たことがある。京都で私と人形が繋がった。

長野の飯田市にはそれらの人形が展示された 「川本喜八郎人形美術館」なる場所あるらしい。あ、長野も繋がった。

見事な寄せ集め人生。こんどはその美術館に行ってみたいと思う。

2013.02.16

  • ぱちんこ 必殺仕事人IV KYORAKUコレクション Vol.2
ぱちんこ 必殺仕事人IV KYORAKUコレクション Vol.2
フラッシュからの主水スーパーリーチはどの程度再現されているのでしょうか。確認しに店に行かずにはいられません。
  • 日本芸術史研究―歌舞伎と操り浄瑠璃 (1971年)
日本芸術史研究―歌舞伎と操り浄瑠璃 (1971年)
『和辻哲郎 「日本芸術史研究 歌舞伎と操り人形浄瑠璃」昭和30年 岩波書店』
どうやらこの本で「阿弥陀胸割」とキリスト教との関係について触れられているそうなのです。読んでみたいのですが、随分古い本なので手に取れる場所はあるんでしょうかね…と、思ったら地元の図書館にありました。蔵書検索システムありがたいです。
  • 川本喜八郎 三国志百態 for デジタル
川本喜八郎 三国志百態 for デジタル
1984年に出版された同書籍は、今ではなかなか手に入らないようですね。こちらはCD-ROMのPC版のようなのですが、これだと本とは違って人形の角度を変えてみたりすることもできるそうです。これも図書館にないでしょうかね?…と欲を出してみましたがこちらは蔵書検索ではでてきません。その代わり、別冊太陽の川本喜八郎本があるみたい。かなり気になるんで借りてきます。
  • 人形劇 三国志 全集 一巻 [DVD]
人形劇 三国志 全集 一巻 [DVD]
あー見たくなってきました。見たくなってきました。
買っても何年も再生しないまま放置する予感ぷんぷんするけど、見たくなってきました。NHKオンデマンドだと1話210円らしいです。1本45分で全68話…見たくなってきました。…NHKアーカイブスに行けば無料で見れるらしいです。そうしましょうか。息子が45分我慢できる年になったら連れて行ってみましょうか。

コメントを残していただけると、読者の反応の改善に役立ちます。自由にコメントしていただいて構いませんが、スパム行為や他人を貶める誹謗中傷などはご遠慮ください。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。

Loading
  • カテゴリー

  • 最近の投稿

  • おすすめ

    • 見仏記4 親孝行篇 (角川文庫)
    • みうら じゅん, いとう せいこう
    Image of 見仏記4 親孝行篇 (角川文庫)

    みうらじゅん氏といとうせいこう氏の見仏記第四弾です。
    今度は、親孝行編ということでそれぞれのご両親を連れた親子見仏の旅。新潟は海も山もあるし、ご飯も魚もお酒も美味しいし、温泉も沢山あるし東京からもアクセス良いし、親孝行にはもってこいの県ですな。

    新潟のお寺からは、観音寺、善行寺、西生寺、国上寺、浦佐毘沙門堂、西福寺、円福寺がエントリー。日本最古と最新の即身仏や、あまり仏像形式では見ることの出来ない浦佐毘沙門堂の常瞿梨童女(じょうぐりどうにょ)に両氏が出会ったエピソードなども綴られています。

    • へんな仏像
    • 本田 不二雄
    Image of へんな仏像

    「頭の中でどうにも収まりのつかないものとの出逢いは、困惑をもたらすものでしかないが、同時に、沸き立つような好奇心を刺激する存在である。」(まえがきより)

    私が仏像にハマったキッカケとも言える感情を、まえがきの一文で見事に表現しています。
    本書は、日本全国にちらばる異形の仏像・神像を中心に約60体を紹介。仏像を求めてあちこちに出かけていくと、時折、理屈ではわからないおかしな仏像に出会うことがあります。そんなとき思う。「これは何を意味しているんだ?どうしてここにいるんだ?」と。不思議なものがそこにあり、そしてそれを長い年月の間、受け継いできた人々がいる。その時代の流れに少し触れられることが楽しい。そんな見仏のモチベーションを掻き立ててくれる写真が沢山掲載されています。

    新潟からは加茂市双璧寺の元三大師坐像と、栃尾のほだれ大神がエントリー。
    「国宝・重文の仏像に言葉はいらないが、異相の神仏像には理由がある。」(あとがきより)

    • 大仏をめぐろう
    • 坂原 弘康
    Image of 大仏をめぐろう

    全国各地の大仏・大観音70体をカラー写真と詳細なデータで紹介。奈良・鎌倉をはじめとした歴史ある大仏から、「胎内めぐり」ができる大仏・大観音、地元住民に愛される「ご当地大仏」まで、著者が30年にわたり全国の大仏を訪問し気づいた、お寺めぐり、仏像めぐりの新しい楽しみを提案。
    新潟からは越後の里 親鸞聖人,弘願寺弘法大師像,白馬大仏がエントリー。

    • 般若心経絵本
    • 諸橋 精光
    Image of 般若心経絵本

    絵本作家でもある長岡市にある千蔵院のご住職、諸橋精光氏の著書。
    タイトルのとおり般若心経を概念を絵本の世界で表していて読みやすく、その世界観をうまく表しているという実感があります。絵を見ながら般若心経の文字を読んでいるとスッと心が落ち着く瞬間があり、何度も読み直しました。

    • 壊れても仏像―文化財修復のはなし
    • 飯泉 太子宗
    Image of 壊れても仏像―文化財修復のはなし

    仏像修復をおこなっている飯泉太子宗氏の仏像修復に関するエッセイ。
    今、仏像に関する書籍は数多く出版されていますが、この本のような視点から書かれた本はあまり多くなく、いくつかのお寺を訪ねて仏像を見て回ったあとは、ぜひこの本を読んでみることをおすすめします。

    新潟に限らず地方の仏像を見て回っていると、宗教や美術品という見方とは一線を隠した独特の"信仰"という感覚を感じることがあります。
    仏像はその土地に昔から住んでいた人を繋いでいる、リレーのバトンだと思うんですが、それがこの本を読むとスッと入ってくる。
    数ある仏像関連書籍の中で、一番好きな本です。

  • 書いている人

    1

    やまざき ふみひろ

    フリーランス仏像愛好家。仏像についてひとことも喋らなくても、誰も困らないくらいのフリーランス。ライフスタイルとしての仏教好き。
    Twitter IDは[ @gatabutsu ]。新潟の仏像話を中心につぶやき中。
    Facebookでは、記事にする前のメモ書きや、美術館・博物館などもうちょい広い話題でやってます。

    mail
  • Meta

  • Facebook

  • ガタブツ