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駄菓子屋の思い出と善導寺の仁王

投稿日 2012年5月05日 土曜日

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カテゴリ上越地区の仏像

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子供のころは、小洒落たバーに入り浸るがのごとく、駄菓子屋に入り浸っていました。
そこに居たのは細い指でシェーカーを振る美人なバーテンというわけではなく、指どころか乳まで皺が刻まれたであろう婆さんだったのですが、それでも子供のころには入り浸る駄菓子屋があるということが一種のステータスでもあり、「ローヤルクラウン飲みてぇ、馴染みのババァにも会いてぇ」と、佐渡金山の蝋人形よろしく呟いていたのでした。

最近ではコンビニやスーパーでも駄菓子を買えるようになりましたが、あれでは風情がありません。やはり駄菓子屋というものは、妖怪のような婆さんと「当たりクジ隠してるんじゃねーか」と丁々発止のやり取りをしながら、子供が社会を学ぶ場であったように思うのです。
だいたい、コンビニやスーパーの駄菓子コーナーは整然としすぎています。駄菓子売り場に必要なものは雑多感。狭い売り場スペースの中に数多くの商品を立体的に配置し、時には箱と箱の間からネズミが顔を出すような、その雑多感が大事なのです。
天井から吊り下げられた無数の小袋には婆さんのナプキンではなく、アイドルの生写真やキン肉マンのシールが入っていました。

正月で実家に戻った際に、子供のころによく遊び場にしていたお寺には、立派な山門があって仁王が居たなとふと思い出し、歩いて出かけてみました。
新潟県上越市の寺町というところは、狭いエリアの中に63ヶ寺もお寺が立ち並ぶ、全国でも有数の文字通り寺の密集地帯で、近所に住んでいた子供達には、お寺の境内が格好の遊び場となっていたのです。

説明看板

お寺の境内で遊んでいた時代からは、20年以上も時間が経過しています。
記憶とはかくも曖昧なもので、思い出の山門にはすぐには辿りつけず、私は寺院群の中をブラブラと歩きました。

目的の善導寺は、金井駄菓子屋のすぐ近くに建っていました。
駄菓子屋の屋号は、その店をやっているお宅の名前そのままのところがほとんどのようで、私の住んでいたところでは金井や清水、他数件の店があったように思います。

その金井も既に店じまいの様子。

善導寺には県指定文化財となっている、ご本尊の善導大師像が居ます。

この善導大師像、目を細め口を開いた穏やかな顔をしており、口内に小孔があります。もともとは6体の化仏を針金で連ねてこれをさしていたものと思われ、今ではエクトプラズムこそ出してはいないのですが、その顔が元祖エクトプラズムの六波羅蜜寺の空也さんを思い出させる、新潟でも有数の名仏だと私は思っています。まだ実物にはお会いしていないのだけれども。

その日ここを訪れた目的は善導大師ではなく、山門と仁王。

仁王門

久しぶりに訪ねてみると、立派な山門だということが改めてわかります。

山門には赤い前掛けの仁王さん。
とにかく仁王の写真を撮りまくる仁王写真家の渡辺丈士氏(@nabe_take)によれば、この前掛けは日本海側の仁王特有のファッションで、関東圏ではあまり見られない独特のファッションなのだそうです。上越市の中学生が体操着を来て下校するようなものですか、違いますか。

阿形

吽形

下駄はまだわかる

山門といえば大きなわらじが吊り下げられているところが多く、これは「中には、こんな大きな草鞋をはく大男がいるんだぞ」という、ある種結界の意味をも持っているのですが、こちらの山門には沢山の下駄が打ち付けられていました。

おかしいではないですか。
草鞋なら仁王が履いても良さそうなものですが、下駄だと話が違ってきます。これでは「中には、沢山のバンカラがいるんだぞ」というメッセージになってしまいます。言葉の響きだけでバンカラとか言ってしまったのですが、私はバンカラのことをよく知らないので、多少の軌道修正をしたとしても「中には、沢山の柔道部員がいるんだぞ」になってしまうではありませんか。

…沢山の柔道部員。
私の記憶にある柔道部員は、アニメが大好きな小太りで、寝技が得意な上に私を締めながらハアハァ言ってきた小泉くんですので、どちらにしても下駄なら結界的な意味でさほど影響はないと思いますが、ふと目に入った次の履物は大いに問題がありそうです。

ヘップサンダル

ヘップサンダル。

下駄に混じって年配のご婦人御用達の、ヘップサンダルも吊り下げられていました。
おかしいではないですか。
これでは、「中には、沢山のご婦人がいるんだぞ」というメッセージになってしまいます。むしろ、この門をくぐり抜けるとそこはスーパーですよいらっしゃいませ、といった路面のサイン看板ともとれるメッセージで、雑多にぶら下げられた下駄やヘップサンダルは駄菓子屋に吊り下げられた生写真や婆さんのナプキンのようでありつつ、そのメッセージは整然と商品が並べられたスーパーを表しているようでもあり、その脇には店じまいをした金井駄菓子屋があるという、これはもしも仏像愛好家がドラッカーを読んだとしても到底理解できないというメッセージなのではないですか。

と、おもむろにヘップサンダルをググったところ、ヘップサンダルのヘップは、オードリーヘップバーンのヘップが語源だというらしいです。そうかオードリーさんも、ローマではこんなスリッパみたいなヤツを履いていたのか。とかなんとか言ってみたところで、映画好きでもなんでもない私が初めてみたヘプバーンさんの姿は1989年公開のAlwaysで、オードリーさんは時すでに60歳のおばさまであぁヘップサンダルピッタリねと、思いの外納得した次第です。
その後私は、スーパーでビッグカツを買って帰りました。

2012.1.2

善導寺(ぜんどうじ)

仏像 善導大師立像(国指定重要文化財:鎌倉)県指定の善導大師立像(鎌倉)、仁王
場所 〒943-0892 新潟県上越市寺町2-2-5
問い合わせ先 善導寺(TEL:0255-23-5097)
拝観時間 要連絡
拝観期間 要連絡
拝観料 志納
公式サイト なし
新潟県上越市寺町2丁目5−5

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  • 書いている人

    1

    やまざき ふみひろ

    フリーランス仏像愛好家。仏像についてひとことも喋らなくても、誰も困らないくらいのフリーランス。ライフスタイルとしての仏教好き。
    Twitter IDは[ @gatabutsu ]。新潟の仏像話を中心につぶやき中。
    Facebookでは、記事にする前のメモ書きや、美術館・博物館などもうちょい広い話題でやってます。

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